コラム

うつ病・アルツハイマー予防改善に読書を

旬のおいしい食べ物がたくさん出回り、芸術や文学を堪能するにはもってこいの季節になりました。人それぞれの楽しみ方がありますが、日が落ちるのが早くなり、夜が長くなるこの季節こそ読書でリラックスしてみてはいかがでしょうか。読書にはただの娯楽だけではない、健康に良い影響をもたらす利点もあるのです。猛暑を乗り切った体 は、思った以上に疲れやストレスを溜めています。たまにはゆっくり腰を下ろして本を読み、疲れとストレスでガチガチに固まった頭や体をほぐしてあげましょう。
  読書といえば、筆者は小学校の頃のはなし。夏休みの読書感想文の課題で、「まえがき」と「あとがき」を適度に写し、提出したら、担任の先生に怒られたことがありました(汗)。改心した今、皆様のお役にたつ情報を少しでもご提供できればと思います。     ◆大脳への影響 読書をしている時、頭は単純に本のストーリーを追っているだけではなく、想像することで、大脳がそれを実際に経験したかのような働きをするといわれています。読書中の脳をスキャンしたところ、本の中の景色や音、におい、味を想像しただけで、大脳のそれぞれをつかさどる領域が活性化したという結果が出たそうです。同じように実験したところ、この現象はテレビやゲームでは起こらないことが判っています。読書中の想像力が、脳を活性化させるのです。オックスフォード大学のジョン・スタイン教授は、「読書は脳全体を使う、積極的な活動である」と指摘しています。 ◆リラックスできる 英サセックス大学の研究では、読書がもっとも効果的なストレス発散法であると述べています。本を開きページをめくり始めてわずか6分間で、ストレスが3分の2以上軽減されるといいます。これは音楽鑑賞や一杯のコーヒー、紅茶、散歩などのリラックス法によって軽減されるストレス量をはるかにしのぐレベルだそうです。読書中の集中力が脳をリラックスさせることで、読者の心拍が落ち着き、筋肉の緊張もほぐれるためと考えられています。また、読書でリラックスすると、しばしの間抱えている悩みを忘れ、孤独を感じにくくなります。英語には「良書があれば決して孤独にはならない」という格言があるくらいですから!フランスの哲学者モンテスキューは、「一時間の読書をもってしても和らげることのできない悩みの種に、私はお目にかかったことがない」との格言を残しています。 ◆よく眠れる 「本を開くと同時に寝てしまうから、読書は苦手」という人の声も聞きます。こうなるとなかなか本を読み進められないかもしれませんが、速やかに眠りに導入できる点では健康的です。専門家によると、寝る前の読書は心を落ち着かせ、自然と目が閉じるようになるためおすすめだそうです。本を読むと眠りに入りやすいというのは、誰にでも起こる自然現象だったのですね。最近は、タブレットやスマホ、パソコンで読む人もいますが、デジタル機器は脳を覚醒させます。寝る前の読書は紙ベースの書籍で。ページをめくる感覚も、読書の醍醐味です。 ◆自己啓発本はうつ病予防に 英グラスゴー大学のクリストファー・ウィリアムズ女史の研究では、自己啓発本はうつ病を軽減させると発表されました。うつ病と診断された患者に行った実験で、抗うつ剤の治療を受ける人と、睡眠障害などのうつ病を扱った自己啓発本を読んだ人の様子を4ヵ月間調べています。その結果、自己啓発本を読んだ人は、抗うつ剤治療を受けた人より症状が改善していたことがわかりました。また英マンチェスター大学の調べでも、深刻なうつ病患者ほど、自己啓発本による効果が期待できることがわかっています。 ◆アルツハイマー病の予防に 子どもの頃から読書やパズル、将棋など大脳を刺激する習慣がある、また年をとってから読書などで頭を使っていた人ほど、記憶力の低下が抑えられるといいます。米ラッシュ大学のロバート・ウィルソン博士は、「特に高齢になってからの読書は精神的退化を32%遅らせ、逆に頭を全然使っていないと精神的退化が48%加速する」と述べています。カリフォルニア大学バークレー校の研究では、継続的に脳を刺激していると、アルツハイマー病の原因物質「ベータアミロイド」の形成を抑制することができることが判っています。認知症の症状がでていない60才以上の脳を調べたところ、子どもの頃から読書などで脳を使っていた人は、脳内のベータアミロイドが非常に少なかった一方、そうでない人は脳内に多量のベータアミロイドが存在したのです。このことからもわかるように、読書で脳を刺激することで、アルツハイマー病の予防にも役立つといえます。   ◆感情を推し量ることができる ストーリーを通じて、主人公だけでなく他の登場人物の心情や感情も体験するため、自身の人間関係においても相手の気持ちを推し量ることができるようになり、コミュニケーション力の向上に繋がります。特に文学作品を読むと、人の気持ちを読み取る能力が上がると言われています。文学作品は、一般向けの大衆小説よりも書かれているテーマや内容が多種多様、登場人物の人格や内面が複雑で、人物像や心情がいく通りも考えられるため、理解するのが難しい場合が多々あります。その中で、複雑なことに想像を巡らせて理解する努力をすることで、実生活でも人の気持ちを読み取る力が付くというわけです。もちろん、大衆小説にも優れた作品はたくさんあります。本を読んで考える、理解しようとする、想像することがまずは重要なのです。子どもにおいては、読書は想像力だけでなく、洞察力、集中力を養うとして、積極的に読書活動を取り入れる学校も増えています。 ◆さまざまな視点から考える力が付く 例えば、同じようなテーマの本が何冊も出版されていますが、「何が違うの?なぜ同じような本を書いているの?」と思ったことはありませんか。読書を続けているうちに、同じ内容を説明していても、著者によってテーマへのアプローチの仕方が違う、切り口が面白い、著者AとBはこんなにも違う視点から書いているのか、というふうに物事の見方は人それぞれ違うことに気付くようになります。多読することで、多くの角度から内容を捉えることができるようになるのです。そうすると、その本では一番何をいいたかったのか、事の本質も見極める力が身についてきます。また、多くの本を読むうちに、著者ごとの特徴もだんだん見えてきます。その著者の言葉の選び方や表現、書き方などの傾向がわかってくると、さらに自分の好みともマッチしやすくなり、本を選ぶ時の楽しみにもなるでしょう。 ◆興味のある本から 学校でも家でも「本を読みなさい」と何度となく言われた子ども時代。大人になった今では、親や教師のようにあえて読書を促してくれる人はいません。読書はストレスを軽減させ、考える力を与えてくれ、脳の退化を予防する。こんなに良い影響がありながら、それをやすやすと見捨ててしまうのはもったいないと思いませんか。本を読むよう言われるのには、それなりの理由があったのです。日頃読書の習慣がない人は、まずは興味がある分野の本から読み始めてみてはいかがでしょうか。