コラム

高齢者(施設)気を付けたい感染症予防と種類

感染症のあれこれ

2015年の冬は暖冬といわれたように、12月に入っても暖かい日が続いていましたが、急に気温が下がった日もあれば、20度を越える春のような日があったりして、体調を崩した人も多いことでしょう。暖かいからと朝上着を薄手のものにして出かけると、夜の急激な冷え込みで身体が冷え風邪をひいてしまったり・・・。一体何を着ていいのかわからない、と朝の天気予報を見ながら悩む日が続きました。12月の中旬頃から気温が下がりまさに冬らしくなってからは、風邪やインフルエンザ、ノロウィルスなどが原因の感染症胃腸炎や食中毒が例年のように流行しています。体力のない高齢者がかかると重篤化することがあります。

介護施設では感染症が瞬く間に広がりますので、有料老人ホーム等の介護施設職員様にも是非ご一読いただきたいです。

感染症の予防対策とそれぞれの特徴をもう一度確認し、日頃から予防を徹底するとともに、症状が現れた際には早めに医療機関を受診することをおすすめします。

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>>高齢者、冬の怖い病気

◆風邪

風邪はさまざまなウィルスによって起こります。喉の痛み、鼻水、くしゃみ、咳などの局所症状や発熱がみられ、比較的ゆっくりと発症します。集中した流行時期は特になく、年間を通してかかります。特に疲れて体力や免疫力が落ちている時や、季節の変わり目などにかかりやすくなります。

【感染経路】

普通風邪は、一般に「鼻かぜウィルス」と呼ばれるライノウィルスが原因だといわれています。
感染経路は、風邪にかかった人の咳やくしゃみで飛散したライノウィルスを吸い込んで感染したり、感染者の鼻水や唾液が付着した物に触れ、さらにその手で自分の目や鼻、口に触れることで間接的に体内にウィルスを取り込んでしまうことが挙げられます。ライノウィルスは感染力が強く、物に付着しても2時間以上も感染性を保ちます。咳やくしゃみをする時に、自分の手で口や鼻を押さえますが、当然その手にはウィルスが付着しています。その手で何気なく何かに触れていることは十分にあり得ますので、ウィルスを取り込まないようにするには、電車の吊革やドアノブなど不特定多数の人が触れる可能性のある公共の物にあまり触れないことです。しかし日常生活においては、全く触れないというのは至難の業。手にウィルスが付着したとしても、その手で粘液のある目や鼻、口に触れないようにすれば良いので過剰になりすぎる必要はありません。頻繁に手洗いをして、付着したウィルスを洗い流す習慣を付けましょう。

◆インフルエンザ

インフルエンザは、インフルエンザウィルスに感染し起こる病気です。インフルエンザの感染力は強く、毎年約1千万人(約10人に1人)が感染しています。一度流行が始まると、短期間に多くの人への感染が広がります。38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛などの全身症状が突然現れるのが特徴です。1月~2月が流行のピークで、気温が上がるにつれ収束へ向かいます。

【感染経路】

インフルエンザも風邪と同じように、感染者のくしゃみや咳などの飛沫と一緒にウィルスが放出され、それを吸い込むことで感染する飛沫感染、ウィルスが付着したものに触れ、その手で口や鼻を触って粘膜から感染する接触感染があります。

◆ノロウィルスによる感染症胃腸炎・食中毒

年間の食中毒にかかった患者の約半分は、ノロウィルスが原因のもので、そのうちの約7割は11月~2月に発生しています。この時期集団発生した感染症胃腸炎の多くは、ノロウィルスによるものだと考えられています。ノロウィルスは経口で感染し、腸管で増殖することで嘔吐、下痢、腹痛、微熱などを引き起こします。ノロウィルスにはワクチンがないため、発症してからの対症療法に限られます。そのためノロウィルスが猛威を振るう冬場は、予防対策を徹底することが大切です。


【感染経路】

ノロウィルスによる胃腸炎は、ノロウィルスに汚染された生牡蠣などの二枚貝を食べたり、ウィルスに感染した人が十分に手を洗わず調理を行い、その手で調理された食品を摂取することでウィルスが体内に入り感染します。また、ノロウィルスに冒された患者の吐物や便を処理した後、手に付着したウィルスを取りきれていない場合、その手を介して口から体内に侵入し感染にいたる「接触感染」、吐物からの飛沫を吸入して感染する「飛沫感染」、吐物や便の処理の際に残ったウィルスを含む粒子が空気中に舞い上がったものを吸入して感染する「空気感染」により、人から人へ広がっていきます。ノロウィルスは非常に小さく、手のしわ、爪の間に入り込み口から感染し、たった10~100個程度の少量でも感染症状を引き起こすほど感染力が強いのが特徴です。

◆結核

結核は「昔の病気」という誤った認識がありますが、現代でも年間約19,600人が新たに発症している感染症の一つです。結核菌という細菌が体内に侵入することで起こります。結核菌は肺の内部で増殖し、咳、痰、発熱、呼吸困難など風邪に似た症状が現れます。しかし、肺以外の臓器が冒されることもあり、腎臓、リンパ節、骨、脳など身体のあらゆる部分に症状が出ることがあります。高齢者は結核にかかっても軽症のまま経過するケースがあり、発見が遅れることがあるため身近にいる人の気づきも重要です。咳や痰が2週間以上続く場合は要注意です。

【感染経路】


結核は空気感染します。肺結核にかかった人が咳やくしゃみをすると、空気中に結核菌が飛び散り、それを吸い込むことで感染します。手を握ったり、同じ食器を使ったりして感染することはありません。生まれてはじめて結核菌を吸い込んだ場合、10~15%の人は1~2年以内に発症します。その他の人は、結核菌が冬眠状態となり体内に留まることになります。すぐに発症しなかった人の場合、加齢などが原因で身体の抵抗力が落ちると、潜んでいた結核菌が活動し始め発症に至ることがあります。結核は人から人へ空気感染するため、人口密度の高い大都市でかかりやすい傾向にあります。近年、結核と診断された80歳以上の割合が高くなっていますが、これはかつて結核が蔓延していた時期に結核菌を吸い込んでいたものの発症はせず、高齢となった現在発症する人が多いためです。

感染症を予防するための対策
先に述べた病気にかからないためには、感染経路を断つことが必須です。

それぞれの病気の感染経路を踏まえ、有効な対策をみていきましょう。

手洗い

どの感染症にも共通した対策として挙げられるのは、徹底した手洗いです。

特に外から帰って来た時、食事の前、トイレの後、調理の前後は石鹸でよく洗い、流水で十分にウィルスを流します。手指だけでなく、爪の間にもウィルスは付着しています。衛生的にも爪は短く切っておきましょう。

予防接種

●インフルエンザ

毎年インフルエンザが流行する季節がやってくると、前もってワクチンを打つ人が増えます。接種してから効果が出るまでに2週間程かかるため、12月中旬頃までに接種しておくことが推奨されています。ワクチンを打つと、インフルエンザにかからないと勘違いしている人が多いのですが、そうではありません。ワクチンを接種しても、インフルエンザにかかる可能性がゼロになるわけではなく、インフルエンザの発症を減らす、また、発症した場合に重症化する割合を減らすことの2つの効果があるのです。ワクチン接種について正しく理解し、検討してください。

●結核

抵抗力の弱い子どもは、結核に感染すると重症になりやすいため、予防のためのBCG接種が行われています。日本での定期予防接種では、生後1歳未満に接種することになっています。乳幼児期にBCGを摂取することで、結核の発症を52~74%程度、重篤な髄膜炎などは64~78%程度予防することができると報告されています。BCG接種のおかげで、子どもの結核患者は比較的少ないのですが、近年は高齢者の発症が増えています。

生活習慣に気を配る

いずれの病気も、体力や免疫力が低下することでかかりやすくなります。冬は特に寒さから体温が下がりやすい時期です。体温が1度下がるだけで、免疫力がぐっと低下し、さまざまな感染症にかかるリスクが高まります。普段から適度な運動で体温を上げ、十分な睡眠とバランスの取れた食事で体力を回復させることが重要です。また、ノロウィルスによる感染症などは、食材自体にウィルスが潜んでいる場合がありますので、調理の際に75℃以上で1分以上加熱し、中心部までしっかり火を通してください。ウィルスは熱によって死滅させることができます。